コラム

台湾 い草工房 【溪泉Si Cyuan】~郭佳琳さん~

「い草の香りは、故郷の香りであり、故郷の味です。」と話すのは、台湾中部、台中市大甲区の天然い草手編み工房「溪泉Si Cyuan」の三代目・郭佳琳さん。

郭佳琳さんが子供のころ、暑い夏の陽ざしの中、工房の創業者である祖父は、い草で編まれた帽子をかぶせてくれながら「い草は太陽の陽ざしが大好きなんだ。これはおばさんたちが手間暇かけて編んでくれたものだから、大事にしないといけないよ。そうすればい草も喜ぶし、使っている人も幸せになるんだよ。」と話してくれたそうです。

 天然い草手編み工房「溪泉」は1947年に創立され、祖父、母と代々引き継いできました。三代目となる郭佳琳さんは、当初家業を継ぐつもりはなかったそうです。しかしニュージーランドに住んでいたとき、現地の人々が伝統的なマオリ族のトーテムのタトゥーを入れている姿に感心し、伝統文化への感謝の気持ちが芽生えたそうです。また幼いころ慣れ親しんできた台湾のい草産業が衰退していくのを見聞きしたことで、その文化を維持していきたいと考えるようになりました。2018年に故郷にもどり、翌年に台中市新村に直営店「渓泉」をオープンしました。店名は祖父の名前からつけたそうです。

現在、天然い草手編み工房「溪泉」では、創業者である祖父から郭佳琳さんの三世代と地元の職人が力を合わせて制作に励んでいます。

台湾のい草織物は、300年以上続く伝統文化で、長い間地元のおばあさんやおばさん達を中心に受け継がれてきました。使用される三角い草は断面が三角で香りが高く、耐久性が高いのが特徴です。日本で主に使われている畳のい草とは見た目も異なります。

三角い草は3~4か月で120~180㎝まで成長する為、1年で3回収穫できます。収穫後、黄金色になるまで1週間ほど干し場にて乾燥させ、織物に適した長さ、太さの物を選別します。

次に選別したい草を裂き、丁寧に打ち叩き繊維を柔らかくします。そして一つ一つ丁寧に編み上げ織物製品が誕生します。

今ではラフィアなどの天然繊維も使い帽子やバッグ、スリッパなど多種多様な製品を作っています。製品は国内でも高く評価され、い草 メッシュバッグ「Carry me」 は2021台中原創工藝獎を受賞しました。

ただ単に家業を受け継ぐだけではなく、地場産業や台湾文化が現代の生活の中で継承されるように働きかけることが自身の使命と考えている郭さん。「化学繊維などが主流となる中、私たちの製品は天然繊維の香りや風合いを楽しめるものにしたいと思っています。また、文化や歴史を感じさせるだけではなく、今のライフスタイルに合った製品を提供することで、より多くの人に手に取っていただきたいと考えています。」

 文:臼田美穂

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